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大阪高等裁判所 平成8年(ラ)903号 決定 1997年5月01日

抗告人 三井則子

主文

1  原審判を取り消す。

2  抗告人の氏「三井」を「広田」に変更することを許可する。

理由

第1本件抗告の趣旨と理由

1  抗告の趣旨

原審判を取り消し、本件を神戸家庭裁判所尼崎支部に差し戻す。

2  抗告の理由

抗告人(昭和39年4月22日生)は、平成4年3月3日、国籍韓国の夫朴義隆(昭和39年8月7日生)と婚姻届出をし、同人との間に長男勇一(平成4年9月9日生)、長女美都子(平成8年5月2日生)をもうけた。朴義隆は、出生以来、通称「広田義隆」を使用しており、抗告人も婚姻後夫の通氏を使用し、長男・長女も同じ通氏を使用している。抗告人は、今後の社会生活上の支障を除くために、通称として使用する氏への改姓を求めて、平成8年8月2日、本件申立てをしたところ、原審は、夫朴義隆が同年9月に死亡しており、抗告人が今後通氏を継続して使用するかどうか不確定であり、通氏の使用期間も短いとして、本件申立てを却下した。しかし、亡夫は「広田」家の長男で跡取りであり、今後は長男勇一がその跡を継ぐ責任があるので、このまま「三井」姓を使用することはできず、依然として改氏が必要である。

第2当裁判所の判断

1  一件記録によれば、抗告人(昭和39年4月22日生)は、平成4年3月3日、国籍韓国の朴義隆(昭和39年8月7日生)と婚姻届出をし、同人との間に上記の長男・長女の2子をもうけたこと、朴義隆は、わが国への特別永住資格を有する外国人で、出生以来通称として「広田義隆」を使用していたので、抗告人も婚姻以後「広田」姓を使用し、2人の子も出生後通称として「広田」姓を名乗っていること、朴義隆は、本件申立て後の平成8年9月死亡したが、同人が長男で跡取りであったことから、抗告人は長男勇一をその後継者とするつもりで本件申立てを維持していることが認められる。

2  日本人妻が外国人夫と婚姻しても、わが法制上、直ちに同一の氏を称することにはならないが、昭和59年法律第45号による改正後の戸籍法107条2項により、婚姻後6箇月以内に届け出た場合には、理由の如何を問わず、外国人配偶者の氏に変更することができることとされた。上記改正の趣旨は、外国人との間であれ婚姻生活を円滑に営むために必要であれば、夫婦が同一の氏を称することを肯認し、その手続を緩和しようとしたもので、同規定は、このような場合には当然に戸籍法107条1項にいう「やむを得ない事由」に該当することを前提としており、夫婦同氏の原則を尊重する意図に出たものと考えられる。

在日韓国人のように在日外国人が永年にわたり日本名を称しそれが社会的に定着している場合にあっては、それをわが国における実氏名と同様に扱うことにも社会生活上の合理性があるといえるから、その者と婚姻した日本人が外国人配偶者の通氏を称することを希望するときは、上記法の趣旨に照らして、その希望は十分に尊重されてしかるべきである。

その理は、氏の変更許可の申立てがされた後に外国人配偶者が死亡した場合であっても、日本人配偶者やその子を含む生活が従前通り外国人配偶者の通氏を称して継続されており、それが安定したものと認められる限り変りはないものというべきである。

3  本件においては、抗告人の亡夫は永住資格を有していた在日韓国人であり、同人の称していた「広田」姓が社会的に定着していたことは明らかである。抗告人は、亡夫と婚姻後2人の子をもうけ、婚姻生活を将来にわたり継続する意思のもとに社会生活上の便宜を考慮して本件申立てをしたところ、思いもかけず夫が死亡するという事態となったが、従前通り亡夫の通氏を称した生活を継続することを表明して本件申立てを維持している。その安定性を疑わせるような事情は認められない。

こうした場合においては、抗告人が亡夫の通氏に変更することによる呼称秩序への影響は小さいから、上記法の趣旨に基づき、亡夫の通氏を称した生活を維持しようとする抗告人の社会生活上の便宜に配慮して、戸籍法107条1項所定の「やむを得ない事由」があるものと解するのが相当であって、本件申立ては認容すべきである。

4  よって、これと異なる原審判は正当でないからこれを取り消し、家事審判規則19条2項に従い、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 上野茂 裁判官 小原卓雄 高山浩平)

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